不透明な男
第15章 嘘
智「ふふ…」
翔「何、どうしたの?」
目を丸くしてた翔も、俺につられて笑うんだ。
智「なんだ、そっか…」
翔「え?」
あんな所俺に見せるからだろ。
智「おれてっきり、翔くんは女の子じゃないと駄目なんだと思ってた」
女の子の肩を抱いてホテルに入っていく翔を見て、当たり前の事なのに愕然としたんだ。
翔「貴方しか見てなかったのに?」
只の気の迷いだと思う事にしたんだ。
智「だって翔くんモテるでしょ?」
翔「へ」
智「女の子に飽きておれに興味が湧いただけなんだと思ってた」
翔「なにそれ」
智「だから結局、女の子に戻るんだろうなって」
翔は女の子のが好きなんだ。
当たり前じゃないか。
なのに何を勘違いしてるんだと。
翔「俺は、後にも先にも智くんだけだよ」
俺の目を見て話す翔の瞳は、凄く澄んでいる。
何の曇りも無いんだ。
智「うん…」
だからこそ、怖くなる。
俺に嵌まっていいのかと。
俺に捕まったら、どうなるか分からないんだぞと。
翔「智くん…?」
あんなに嬉しい言葉を言われておきながら、表情を曇らせてしまうんだ。
ニコッと笑ったのに、曇っているのが翔には分かるみたいだ。
翔「どうした…? 何が、不安なの?」
智「いや…」
どっか行っちゃいそうで怖いんだ。
だって大切な人は居なくなってしまっただろ?
智「ご飯、買ってかえろ? お腹すいた」
翔「そうだね…」
俺の側にさえ居なければ、消えてしまう事は無い。
俺が必要以上に近付かなければ、大丈夫な筈だ。
両親もあの青年も、俺の側から居なくなってしまったけれど、ニノ達は問題無く過ごしている。
俺が必要以上に近付かなかったから。
東山先生には医者を続けられなくなるという不幸が起きた。
それは俺が頼りすぎたから。
翔を離してやりたいのに離せない。
翔から逃げていた様に見えて、俺が離せなかったんだ。
その葛藤が、俺の顔を曇らせる。