テキストサイズ

不透明な男

第16章 透明な男





智「ん、ぅ…」


翔に熱いキスを与えられている。


翔「智くん…」


ドアを開け、部屋に入ると翔は俺を見た。
翔と目が合った俺の瞳からは、涙がひとつ溢れたんだ。


智「しょ、くん…」


ずっと胸が苦しくて、目頭が熱くなってた。
俺はずっと泣きそうだったんだ。


翔「どうしてそんなに不安そうな顔をするの…?」

智「してないよ…」


この温もりに俺は溶けそうなのに、離してやらなきゃいけないんだ。


翔「だって泣いてる…」


俺なんかが捕まえちゃ駄目なんだよ。


智「ぎゅって、して」


なのに離したくないんだ。


翔「ん…」


強く抱き締めて貰うと、安心する。
駄目だって分かってるのにその温もりを離したくなくて、俺はもっと強くしがみついてしまう。


智「もっと、強く…」


すがるようにしがみつく俺を、翔は思いきり抱き締める。
その温もりに包まれて甘い声を出すと、翔は優しく俺の舌を絡めるんだ。


智「ん、ふ」

翔「安心して…」


熱い息を俺の口内に吹き込みながら翔は話す。


翔「俺は居なくならない」


脳にその声が響く。


翔「貴方の側から、離れないよ…」


俺の胸を熱くさせるその言葉で、更に俺の涙を誘ってくる。


智「死んじゃったらどうすんだよ…」


ほら、これなら何も言えないだろ。


翔「俺は死なないよ」


嘘つけ。人はいずれ死ぬんだ。


翔「俺が死ぬのは、貴方より後だから」

智「え…?」


思わず唇を離して翔を見た。


翔「貴方を看取ってからじゃないと死ねないよ」


熱の籠った瞳を細めて、俺を見るんだ。


翔「頼まれたって、一人になんてしてあげない…」

智「しょ…」


だから何処でそんな台詞を仕入れて来るんだよ。


智「ん…」


もう一度与えられるその温もりに、全て預けたくなっちゃうだろ。


翔「俺は消えないから」


俺を泣かそうとしてんだろ。


翔の背に回していた腕を解いて、翔の首に絡み付かせる。

自然と絡み付いた腕は、力が籠るんだ。


もっと熱いキスを頂戴、俺を離さないでと。


そう言っているかの様に、翔を強く引き寄せるんだ。





ストーリーメニュー

TOPTOPへ