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不透明な男

第16章 透明な男



翔「でも、俺は寂しい…」


しょんぼりと肩を落とす翔は矢印になるんだ。
上を指しているのに気持ちは完全に落ちている。


智「おれね、頑張ってる翔くんの姿好きなんだ」

翔「え?」


俺の姿を追う時でも、いつも分厚い参考書を持ってたじゃないか。
その参考書を真剣に見つめる瞳、凄く格好良かったんだ。


智「翔くんと話すと患者さんが笑顔になるの、知ってるよ」

翔「うん…」

智「おれも笑顔になってたでしょ?」

翔「うん」


翔は優しいから、俺が寂しくならない様に最善を尽くそうとする。
そこだけが欠点なんだ。
もう少し自分の事も大事にしろ。


智「まだ研修医じゃん。立派なお医者さんになってよ」

翔「智くん…」


翔も意外と涙脆いのかな。
大きな目がキラキラと光ってる。
それが何処までも透明で、やっぱり俺は目を細めてしまうんだ。


智「絵が売れたら会いに行くから」

翔「絵?」

智「久しぶりに描いてるんだ。ガレッジセールだけど、たまに売れるんだよ」

翔「あと何枚売れたら会えるの?」

智「んー 100枚くらい?」

翔「は?」


何それまだまだじゃんと翔は声を張った。
口を尖らせて文句を言ってたのに、次第に笑い声に変わっていくんだ。


翔「も~ ちゃんと描いてよ~」

智「描いてるよ(笑)」

翔「俺が医者になる方が早いよきっと」

智「そしたら翔くんが会いに来てよ」


ふと目が合う。
目が合ったらもう駄目だ。
そらせやしない。


翔「ずっと側にいるから…」

智「ん、離さないよ…」


脳が痺れるキスをするんだ。
心が温かくなって、ドキドキするような。


智「さ、早く行こ」

翔「でも、もう1泊するからね?」

智「えー 仕方ないな… 1泊だけだからね?」

翔「うん」


俺の事を、宝石でも見ているかの様に目映い笑顔で見てくる。
その翔の手を、俺はしっかりと繋いだ。




さ、早く行かなきゃ。

モタモタしてたら心が揺らいでしまう。






だって俺は、気分屋なんだからさ。












~不透明な男~完~



※引き続きお礼のページ御座います。
よろしければ是非そちらもどうぞ…。

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