不透明な男
第16章 透明な男
智「ん、ふ、長い、よ…」
翔「うん…」
どちらからともなく唇を寄せた。
触れたその唇が温かくて、なかなか離せなかったんだ。
智「ほら、チケット買いに行くんだから早く支度して」
翔「チケット?」
智「うん」
翔「何の?」
智「飛行機の」
なんだかあのくそデカい荷物が気になる。
何泊する気か知らないが、翔にはちゃんと医者になって貰わなきゃ困るんだ。
智「ひょっとして持ってる? 帰国便のチケット」
翔「や、持ってないけど」
智「んじゃ朝御飯食べたらいこ?」
俺の背に視線が刺さる。
同じ部屋にいるんだからそんな視線送らなくてもいいのに。
智「なんだよ。その視線痛いんだって(笑)」
翔「智くんも帰る?」
智「帰んないよ」
翔「は?」
ああ、また。
智「ほら、固まんないで。進まないじゃん」
翔「え、やだ」
智「ん?」
翔「嫌だ」
ごねた。
拗ねる翔も可愛いな。子供みたいだ。
智「嫌だじゃ無いよ。仕事あるんだから」
翔「じゃあ一緒に帰ろうよ」
智「それは無理」
俺は翔の事が好きだけど、足枷にはなりたくないんだ。
翔「どうして?」
智「だってココ気に入ったし」
翔「言葉通じないのに?」
智「ジェスチャーでなんとかなってる」
お前が一生懸命勉強してたのだって知ってるよ。
見てたんだから。
翔「じゃあ俺も帰らないから」
智「それは駄目だよ」
翔「離したくないって言ってたでしょ? 智くんは寂しくないの?」
寂しいに決まってるだろ。
だからごねるな。
追い返せなくなるじゃんか。
智「離さないよ。やっと捕まえたんだ、離す筈無いよ」
翔「だったら」
智「距離の事を言ってるんじゃないんだ」
寂しいけど大丈夫なんだ。
俺はお前に不安なんて無いんだよ。
智「確かに距離は遠いけど、翔くんはおれの近くにいるでしょ?」
翔「え?」
智「おれも、ずっと翔くんの側にいるよ?」
翔「智くん…」
俺はお前を捕まえたんだ。
お前だって俺を捕まえただろう?
こんなに居心地のいい場所から離れる訳が無いだろ。
智「だから、おれは寂しくなんて無い」
遠くたってお前の声は聞けるんだ。
俺が寂しくなったら、お前はその優しい声を聞かせてくれるんだろ?