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不透明な男

第3章 自覚の無い男


あれから数日後、俺は退院した。

退院するまでの数日間はいつもと同じ様に看護師達の日課に翻弄され、翔の検診を受けていた。
松兄ぃも毎日見舞いに来ていた。

いつもと変わらぬ日々を過ごしていたが、ただひとつ、夜になると不思議な事が起きていた。


あのヘンな夢。

あの夢を毎晩見る様になっていた。

誰かが俺の名前を呼ぶ。それもとても優しく、愛しそうな声で…。



結局なんの夢か分からずに退院日を迎えた。

松兄ぃが退院の手続きをする。
あんな超特別室、相当高額な費用が掛かっただろうに松兄ぃは俺に何も言わず、ポンといとも簡単に支払いを済ませた。

俺は病院の看護師や、俺に携わってくれた先生方と翔に見送られ病院を後にした。


松「ここが、俺の家だ。」

智「…」


その高層階のマンションの一室はとても広く、すごくお洒落だった。


智「ずっと思ってたんだけど」

松「?」

智「松兄ぃって、すんごいお金持ちなんじゃないの?」

松「まぁ、それに見合った仕事はしてるからな。」


落ち着かない。こんなお洒落な空間でやっていけるかな。と俺は不安を感じた。


智「松兄ぃって独り暮らしだよね?」

松「ああ、独身貴族だ。」

智「…こんなに部屋いらなくない?」

松「ははっ、確かに使ってない部屋もあるな。」

智「もったいねぇ…」

松「立場上、それなりに見栄張らなきゃいけねぇんだよ。」

智「そなの…」

松「そうなんだよ」


このまま出張に行くと言う松兄ぃは、俺が困らないように生活する為の説明を捲し立てた。

コンビニは下にあって、スーパーは何処其処にある、洗濯機はこうやって使え等、一気に覚えるには無理があるだろうという量を話す。


松「まあ、困ったらいつでも電話して来い。」

智「わかった、ありがと。」


そう言うと電話番号の記されたメモを残して俺にキスをすると、颯爽と去っていった。






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