霧島さん
第1章 プロローグ
「それより、俺暫く片付けで部屋にずっといるんでいつでも呼んでくださいね。ご飯持って行きますから」
もう少し肉付きがいい方が…なんて言いながらプニプニお腹を触られて、
私は瞬時にその手を払ってできるだけ強く睨みつける。
「お気遣いありがとうございます。しっかり食べてますので大丈夫ですよ」
「、そのようですね。余計なお世話だったようですみません」
はらわれた手をヒラヒラとさせて、意外にもあっさりと男が引き下がる。
…その貼り付けた笑顔の下に、何を思っているのだろうか。
人付き合いなんてとうの昔に捨てたから、というわけでなく、この男は自分を隠すのがうまいように思う。
「では、挨拶もすませましたし、片付けに戻りますね。改めてこれからよろしくお願いします」
「っ!!」
するり。
私の伸ばしに伸ばした髪を長い指で掬って、そこに唇がそっと落とされる。
まるで王子様のようなその仕草に思わず固まっていると、男は軽い身のこなしでベランダを飛び越えていった。
「…本当に、なんて人だ…」
ずかずかと入り込んでくるから、気持ち悪さなんて感じる暇もなかった。
「…苦手だ」
ぼそり。再び光を遮断した部屋で呟いたその言葉は、一瞬にして空気へ消えていく。
十二月一日。よりにもよって、月の始まりに引っ越してくるなんて。
私は重いため息を吐いて、来るべく時間を待つためにベットに潜り込んだ。