霧島さん
第5章 志月筧
「じゃあ俺、そろそろ帰るな。ハンバーグ、残ってるやつ食べていいから」
「え、あ、っと…はい」
最後にハナちゃんの頬をひと撫でして、立ち上がる。
怯えた瞳が若干濡れて、ゆらりと揺れる大きな瞳。
その瞳に今映ってるのは俺だ。今までの女の子は結局奥底で蛍を見ていたけれど、ハナちゃんだけがきちんと俺を見てくれている。
それだけで俺は嬉しいよ。
「かっ筧さん!」
「、なーに?」
が、帰ろうとした俺をいつになく大きな声で引き止められ、ピタリと足を止める。
振り返ると、ハナちゃんが不安そうな顔を浮かべ、俺を真っ直ぐに見ていて。
「ありがとう…ございました、」
その癖声はガタガタに震えていて、可愛く思う。
本当に惜しい。我が弟が羨ましいよ。
「いーえ」
俺は自然と笑顔を浮かべ、2人の部屋をあとにした。
「わーー俺マジで恋のキューピットじゃん」
あとはなるようになって、上手くいけばいいね。
深夜の独特の澄んだ空気が、チクチクと肌に刺さる。この心臓の痛さも、きっとそのせいだ。
「…こちらこそありがとうだよ」
降り出した雪空を見上げ、俺は小さく呟いた。