最後の恋
第3章 のりもの
彼はバイクが好きだった。
乗るのも見るのも好きなようで、街を歩いていてバイクが通ると、よく目で追いかけていた。
最近買い換えたんだ、と教えてくれたバイクは、ローマの休日に出てくる可愛いバイクだった。
レトロな風貌に、丸いライトが可愛らしかった。
一度だけ後ろに乗せてもらったことがある。
彼のヘルメットを借りたら大きすぎて頭がふらふらした。
彼は笑って、子供をあやすように優しく顎の下のベルトを調節してくれた。
エンジンをかけると、思いの外大きな音が響いて、マンションの住人がみんな起きてきてしまうのではないかと思ったくらいだった。
そんなにスピードは出していないはずだが、普段歩きか自転車しか乗らない私には十分怖かった。
後から聞いたら、彼も人を乗せたのは初めてだったので、実はとても怖かった、と言っていて笑えた。
この背中にしがみついて、風を切りながらバイクで走る。
あれは人生最初で最後の体験だった。今思えば、怖くても目を閉じないで、何もかも焼き付けておけばよかった。
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