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最後の恋

第3章 のりもの


彼と私は教室から帰る時、同じ路線を使っていた。

といっても方向は逆なので、ホームまで一緒に降りて、反対の電車に乗る。

例えば山手線のように、ぽんぽん来る訳ではないので、タイミングによっては15分くらい一緒にいられるのが嬉しかった。

たまに階段を降りた時にちょうどよく彼の電車が来ることがあり、そんなときは平気な顔で見送ってみせるのが常だった。

ある夜、とても離れがたい気分の時があって、たぶん私が恨めしそうな目でやって来る電車を見ていたのだろう。

彼は目尻の少し下がった優しい目で微笑んで、私の頭をくしゃりと撫でた。
そうして電車に乗り込んでいった。

本当はこっちの電車に引っ張っていきたかった。そういう顔をしていたんだもの、と彼は後日話してくれた。

でもできなかった。
それをするのは恋人の役目だと思ったから、と付け加えた彼の声は明るかったけれど、やっぱり淋しそうだった。

本当は私もその手をとって、同じ電車に乗りたかった。ぐっとこらえて唇を噛みしめた。

でも一年半も恋人を裏切り続けた事実が、その一回の我慢で帳消しになるなんてことがあろうか。

これ以上罪を重ねるな。サスペンスの最後には探偵や刑事が犯人にそう言うけれど、100回の罪と101回の罪の間に、そんな大きな差はないだろう。

だとしたら、今思えば、限りある時間、一秒でも長く傍にいた方がよかったのかもしれない。

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