テキストサイズ

最後の恋

第3章 のりもの

二人でよく行った公園の、桜が満開になったので見に行った。
華やいだ春の空気に心も晴れて、何となくはしゃぎたい気持ちになった。

そのせいか、散歩しながら見つけたブランコに、年甲斐もなく、乗りましょうよ、と彼を誘った。
彼は意外にも乗り気で、じゃあ子供が来ないうちに、といそいそとブランコに向かい、せっかくだから二人乗りにしよう、と言い出した。

私の服を汚さないように、と彼が先に座板に腰掛け、
その後ろから私が、僅かなスペースに足を掛け、立ち漕ぎする形になった。

大人二人の体重を乗せ、よろめくようにブランコが動き出す。
大きくなった体は、子供用の遊具に対応しきれず、ぎこちない。
ちっともうまく漕げないけれど、それがおかしくて、私達は笑い転げた。

笑っているうちに、ふとある想像が頭をよぎった。

私達は実は幼馴染みで、私は近所に住む5歳年上のこのお兄ちゃんが大好きだった。
いつもくっついて遊びたがると、お兄ちゃんは少し煙たそうにしながらも、決して私を邪険に扱わず、
こうして一緒にブランコを漕いで遊んでくれた。
学校も会社も違うところに進んだけれど、ずっと近所に住んでいて、
時おりこうして会っては、昔を懐かしみ、一緒に遊んで、笑いあって、時と共に自然と惹かれ合い、いつの日か結ばれる。

ふいにブランコが止まり、彼が私を見上げた。
風が出てきたよ、そろそろ戻ろう。
そう言う彼の優しい笑顔は、思い描く幼馴染みのお兄さんに似つかわしい。
それでも、幸せな想像は、想像でしかない。

彼に支えられてブランコから降りた私は、ちらりと周りを見渡す。
日が落ち始めた公園に、他に人の姿がないことを確認して、
風を受けて冷たくなった彼の頬にそっと唇で触れた。
彼は、悪い子だ、と笑って、私の頬にもお返しにキスを落とす。

幼馴染みでなくたって、ほんの少しの勇気と決断で、
これを幸せな恋にすることができたに違いない。

それでも私にはできなかった。
どんなにきれいな言葉で飾っても、幸せな想像でごまかそうとしても、
この行為はただの裏切りでしかなかった。
ただ、ブランコだけは、想像の世界と同じように揺れていて、
私はそれを彼と漕いでいたかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ