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Face or Body

第59章 生まれくる命

遠い昔に感じちゃうよ……。

私は
マキマチヒカル…。

県警本部所属の
機動捜査係所属の潜入捜査官…。

どんな恐怖や屈辱にも耐えて
犯人確保の瞬間に集中してた…。

そんな私は
もう消滅してしまった…
アキラとの赤ちゃん欲しかった…

なのに私は
今では誰の子か分からない胎児を宿し
あの甲高い声の男の
徹底した暴力で
恐怖感による服従を
条件反射のように埋め込まれた…

アキラ…
どうしてるの?
助けにきて!!
それとも…
もう私のことは忘れちゃった?
寂しいよ…
つらいよ…
こわいよ…
ひとりぼっちだよ…

身重の臨月の身体を檻のなかで横たえる
ヒカルの瞳から
涙が頬をいく筋も伝った…。

と…
そのとき
ヒカルの中で再び
ぐりん…
ぐりんぐりん…と胎動が活発になる。


―――………
もしかして!!
ヒカルはあることに気がついた

偶然かもしれないけど
この子
私が泣いたときや
苦しいときに限って
激しく動く…

ヒカルはそっと手をふくらんだ
お腹に置いて
お腹の赤ちゃんに囁くように
瞳を閉じて声をかけた

『あなたは、私を励ましてるの?』と…

胎動は一瞬
考え込むように止まったあと
自分の意思が伝わったように
リズミカルにトントンと
動いた…。

ヒカルはなにか心が暖かくなる
そんな思いに満たされた…。
母になる実感と自覚をえた瞬間だった。

―――私はひとりぼっちじゃない!!
この子がいる!!
確かに忘れたい否定したい妊娠だった
だけど
もう過去は変えれない。
私には
私の屈辱や悲しさを
ずっと一緒に感じてくれていた
身体のなかのもう1つの命がある!!

生きないと!!

私は誰?
拉致監禁されて
肉玩具と化した奴隷同然の女?
いや…
ちがう!!
私はマキマチヒカル。

この新しい命を守れる唯一の存在なんだ

まずは
ここを脱出しないと…
生きないと!!

ヒカルの瞳に生気が戻った。

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