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泣かぬ鼠が身を焦がす

第29章 黒白を


「っと……言ったそばから……」


誰も聞いていないのはわかっていたが、つい愚痴が口をついて出る

だがそれも、こんな関係にあることを幸福に感じてのことだ


俺は純の頭を浴槽の淵に預けて、身体の泡を手早く流す

そしてまた純が湯に沈まないうちに純を抱えるように浴槽に浸かった


「ふぅ……」


純が静かなせいで、自分のため息がやけに大きく響く

俺は暫く身体を温めてから、純が逆上せないうちに浴槽から引き上げた

眠っている人間は力が抜けているために重くて運ぶのも一苦労だが、純が軽くなっていたせいで随分と楽だった


実家にいた時の食事がどんな状況だったのかはわからないが、家政婦がいたってことはしっかり出されてはいたんだろう

それでもこんなに痩せたのだから、ストレスによる拒食でもあったのか


こんなところでも純を一度手放したことに対する後悔の念がふつふつと湧き上がってくる


「……ん……ん」
「!」


するとそこで純が身じろぎして、俺は現実に引き戻された


今はそんなことを考えている暇はないな
早く純に服を着せないと風邪を引いてしまう


俺は裸のまま純を手早く拭いて先に服を着せた

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