
泣かぬ鼠が身を焦がす
第33章 能ある鷹も身を焦がす(サイドストーリー2)
けどその時の俺にはその動悸の理由がわからなかった
とにかく去っていこうとする伊藤さんを止めなきゃ、と思って声をかけたけど
「何でしょうか?」
と振り返った伊藤さんの視線に、また俺の心臓が跳ねる
その現象に動揺して何も言葉が出なくなった俺に
「大変失礼ですが、貴方と今後そういった関係になる気はありません。私はマゾヒストではありませんので、特殊なプレイは他の方となさって下さい」
と言い
「それから、人を口説くならもっと正面から堂々とするべきです。無理矢理するセックスからなんて、間違ってますよ」
最後にこんな叱責まで付け加えて、伊藤さんは公園から去っていった
「……え……」
そして漸く俺の口から出たのはそんな呟くような声だけで
そのあと、身体中の痛みに沸沸と怒りが込み上がってきた
くっそ……
マジで痛ぇんだけど……!!!
なんなんだよ
あーー、くそ
スーツに砂めっちゃ付いてるし
俺は身体を起こして自分のスーツの砂も叩いて落とす
けど
なんだ
すごい腹立ってるのに
なのに、動悸が治まらない
俺はその違和感を感じたまま、公園を出て家に帰った
