好きになったらダメだよ
第4章 大人って大変だね?
海は遠くに漁獲船が微かに見える以外は、誰もいなくて、そこだけが別世界のように、ゆっくりと時間を刻んでいた。
「綺麗ね……」
素直にそう思えた。
手前から奥へと色が濃くなっていく海に、波の白さが際立っている。
「しんどいときとか、嫌なときとか来るとさ、たいしたことないって思える。」
「うん……」
伊都のしんどいこと、嫌なこと……伊都はまだ高校生だ。そうきっと、私が悩んで、迷ってきた道の途中にいる。
「伊都、あのね、私で良かったら話聞くから!少しは役に立つから!」
ぎゅっと手を握る力を強めた。
「それは教師として?」
伊都は私の顔を覗き込む。
「……」
教師として?それとも……?
「そうじゃなかったら嬉しいけど。」
そう言って、伊都はキュッと私の鼻をつまんだ。
「ご飯、食べよ。お腹減った。」
伊都は履いているジーパンが汚れることなど、気にもせず砂浜に胡座をかいだ。