テキストサイズ

ぜんぶ二人ではじめて

第4章 晃くんが分からない

彰一くんからの告白のあと、すぐ……

その日の放課後……

吹奏楽部は外で楽器を鳴らすこともある。

今日はその日で、野球部の練習を見ながら、サッカー部の練習を見ながら、奏でた。

うまく吹けなくて、一人、その場を離れ、練習をする。

コンクリートの壁に隔てられた、階段の上の方で練習する。

音が響くから、聴きやすい。

ひとしきり練習したあと、泰宏くんが、向こうから、

「市川さーん!15分休憩だって!」

叫んで教えてくれた。

「はーい。」

目の前の水道で口をすすぐ。

カッカッカッ!

コンクリートの階段を駆け上がってくる音がした。

「市川!」

呼ばれて振り向くと、

「竜一くん?」

野球部の竜一くんがいた。

「休憩?」

「うん。」

「俺も。」

「お疲れ様。」

「話せる?」

「15分なら。」

「サンキュ。」

あんまり二人で話したことがない、相手。

泰宏くんが、少し気をつけてって言ってたうちの一人。

でもいつも周りを一番に考えてくれる優しい人。

バスケ部も、卓球部も、バドミントン部も今は部活中。

「急にごめん。」

「ううん。」

「中等部の時の合唱のソロで市川を知って、それからずっと……可愛いなって思って、目で追うだけだったんだ。だけど、高等部で同クラになって、言わずにはいられなくて……俺……市川のことが好き。」

「竜一くん……」

その瞳に金縛り。

「えっと……」

何か言わなきゃ……

「ありがとう。」

「市川は、今、好きな人、いる?」

「…うん。」

「そっか。俺じゃないことくらい、分かってるよ。この先、もし、何かに悩んで、躓いて、起き上がるのに、その時そばにいる奴だけじゃダメな時、もちろん、些細なことでも、誰かを頼りたいとき……きっとあると思うんだ。」

竜一くんがぐっと手に力を入れた。

「市川が笑顔でいられないときは、いつでも言って?俺が最高のギャグでもかまして、大笑いさせるから。きっと、ずっと、好きだから……。」

そう言って、見つめる。

ドキドキするよ。

そんなに見つめられたらドキドキする……

「ただ、想うだけ……想わせてもらえないかな?」

「うん。」

「ありがと。握手しても良い?」

「あ、うん。」

そっと、握手をして、

「じゃあな。」

そう言って走り去った。

その後ろ姿が…

ストーリーメニュー

TOPTOPへ