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徳丸ミッション -香山探偵の手帳-

第1章 路地裏の朝

「松葉さん」古株の探偵の秋田が口を開いた。
「無理を承知お電話したんです。馬鹿馬鹿しい話だと怒鳴られると思って。絶対に無理だって。だけど所長さんがすごく親身になって話を聞いてくれて」
松葉の言葉に不意を疲れた感じで、所長の徳丸新次郎は照れくさそうに目を泳がせた。
「馬鹿馬鹿しいかどうかは、僕らが判断する事じゃないんですよ」香山が柔らかく話しかける。「依頼人にとって重要な事であれば、僕らは全力を尽くします」
「いいですか?」
再び秋田が口を開いた。
「ええ」
「この絵の中に描かれている人物を、今夜あなたが眠るまでに捜すと」
「お願いします」
「何だか、すごくロマンチックじゃないか・・・な?」
 徳丸が満足そうに目を瞑った。
「この絵なんですがね」秋田が話を戻す。「この絵は松葉さんが、お描きになった物で?」
「そうです」
「どこなんです?」
「・・・分かりません」
「でしょうな」
 やっぱりかという空気が応接室に漂う。
「夢で見た場所なんですね」
 紅一点、大倉幸枝が初めて口を挟んだ。
「何で分かったんです」
「あなたが今夜眠るまでに任務を完了させなきゃいけないって事は、そういう事なのかなって」
「おっっしゃる通り、このところずっと夢で見ている風景なんです」
「山と湖と男性」香山が絵をなぞりながら語りかける。「心当たりはありませんか?子供の頃の思い出の場所だとか」
「それが、あんまり同じ夢ばかり見るもので、アルバムなんかを引っ張り出して見てみたんですが・・・」
「そんな場所は無かった」
大倉が口を挟む。松葉は軽く首を横に振りながらこう続けた。

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