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徳丸ミッション -香山探偵の手帳-

第1章 路地裏の朝

「あり過ぎるんです。当てはめればどの写真にだって当てはまるような風景なんです」
「なるほど。言われてみれば、そんな感じだ」
 納得したように香山が頷く。
「だけど、それぞれに浅い思い出はあるものの、決め手になるような物が何も無くて」
「この・・・この人を捜したいというのは?」
「一ヶ月ほど同じような夢を見続けたある日、この湖の向こう岸から私を呼ぶ声が聞こえてきたんです」
 香山は少し身を乗り出した。大倉はずっとメモを取り続けている。
「初めは、おーいって感じで呼んでいたんですが、段々あいまいさが消えていきました」
「あなたの名前を呼んだんですね?」
「いいえ。私の事は知らないようでしたが、私を必要としていたのです」
「どういう事でしょうか」
「頼みたい事があると」
「ほう」
「僕に大丈夫だと伝えてくれと」
「え?」
「現実の僕に、大丈夫だと伝えてくれと、そう言われたんです」
「何が大丈夫なんでしょうか」
 大倉が冷静に聞いてみる。
「詳しくは聞けませんでした。何せ夢なものですから、おぼろげな物が多くて。実際、今お話した事も、夢と現が混同しているものもあるかもしれません」
「いいんです。情報は多い方がいい。夢でも現でも、それが必要である場合だってある」
 香山は強い口調で言った。
「とりあえず、場所の絞込みを急いだ方が良さそうですね」
 大倉の興奮が伝わってくる。
「手始めにだ」秋田の言葉に、一同が緊張した。秋田は難しそうな顔を和らげながら続ける。「松葉さん。あんた自身の事を聞かせてもらうのが、近道だと思うがね」
「私自身の事」
「それともう一つ。・・・この依頼、あんたが眠ってしまった場合、どんな事になるのかね」
「もうあの夢に、戻れなくなってしまうんです」
「つまりあんたは、この男に惚れちまったって事なんだね」
 香山はコーヒーを音を立てずに含んだ。汚れた窓から青空が見える。
「ロマンチックの幕開けだね」
 徳丸は、満足そうに目を開いた。
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