
神様の願い事
第6章 名探偵
翔「嗅いで」
少し困ったような表情を見せたけど、俺が胸を突き出して待っているから、少しずつ智くんは距離を詰めてくる。
翔「どう...?」
俺の胸の前で止まったけど、意を決したように顔を近付けて、クンクンと小さく匂いを嗅いだ。
智「うん...、少し、残ってるかも」
翔「本当...?」
引き出しに入れっぱなしなのに。
それでも何かを感じると言うんだ。
智「ふふ、結構効き目凄いんだよこれ...」
はにかんで、俺をチラッと見上げる。
そのふわふわな髪の隙間から、まるい目が覗くんだ。
智「駄目だ、離れなきゃ…」
うっかり目が合うと、またすぐに逸らす。
智「...っ?」
逸らして、俺から離れようとするんだ。
智「ど、どうしたの」
だから、捕まえた。
翔「まだ気まずいの?」
智「え...」
離れて行こうとするから、思わず捕まえてしまったんだ。
翔「目、逸らしたでしょ」
智「別にそんな事」
翔「そんな事あるでしょ? もう、ずっとだよ…?」
俺の胸に閉じ込めると、居心地悪そうにもぞもぞと動く。
だけど俺は捕まえてしまったんだ。離してなんかやらない。
智「ちょ、離れないと...」
翔「気まずくならないでよ。俺、あの時嫌そうな顔してた?」
智「え?」
翔「してなかったでしょ? 俺は平気なんだよ。だから離れないで」
どうしてそんなに居心地悪そうにするんだ。
この間は、凄く安心した顔で俺の胸に納まってたじゃないか。
翔「“甘えていいよ”って言ったのに。甘えるどころか、目も合わないってどういう事だよ…」
あんまり動くから、腕に力を込めて思いっきり抱きしめてやったんだ。
すると、智くんの動きが止まった。
智「寂しかったの...?」
翔「当たり前だろ…」
智くんの首に顔を埋めて、ぎゅっと抱きしめた。
すると、俺の背にも暖かい腕が回されて。
智「ごめん。寂しいの、知ってたのに...」
翔「分かってたの...?」
ぽんぽんと、俺の背を撫でてくれる。
智「いいよ、甘えて」
そう言って、ぎゅっと抱きしめ返した。
その柔らかい声に、俺の胸は熱くなるんだ。
