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神様の願い事

第9章 ねこのきもち



翔「もし戻れなかったら、じゃないでしょ?」

智「え?」

翔「一緒にいられるならこのままでいいかな、だったでしょ」


戻れなかったらどうしよう、でも翔くんがいるし、みたいな妥協じゃなくて。


翔「この方が幸せなのかもって、言ってたんじゃないの?」


選んだんだ。
一緒にいられるならと、智くんが選択した。


翔「何なの? 欲しくても手に入らないものって...」


ひょっとして俺は、何か見落としてたんじゃないか?


智「そ、んな事、言ったっけ…」


俺に見透かされて戸惑うその素振りを、見落としてたんじゃないのか?


智「聞き間違いじゃない? 俺そんな事...」


青ざめた顔は、更に固さを増していくけど。


翔「誤魔化さないで」

智「っ、一瞬だよ、一瞬、そんな事が過ぎっただけで...、でももう、戻れたし」


凝視する俺から目を逸らすのだって、戸惑っているからなんだと思いたい。


智「あぁ、よかった...、元に戻れて」


ぎこちない笑みを俯きながら漏らして、なんとかやり過ごそうと必死なんだろ?


智「てか、今何時? 準備があるから帰らなきゃ」


で、空気に耐えられなくなって逃げ出すんだ。


智「っ? ちょ、離し」

翔「離さない」

智「や、俺一旦帰らないと」


この話題から逃げようと必死だな。
だけど逃がす訳にはいかない。
今を逃したら、俺は一生後悔すると思うから。


智「ちょ、マジで離...」


俺は掴んでいた智くんの手にキスをした。
触れるだけの、撫でるようなキスを幾つもその手に。


翔「マーキングだよ」

智「え...?」

翔「智くんもしたでしょ? 俺に」


引き攣って青く固まった顔は次第に赤みを帯びて。


智「な...、マーキングって、なに言って」

翔「“俺のモノ”って印なんでしょ?」

智「知らな...」


知らない訳無いだろう。
猫になってた時の記憶なんて全くありませんとか、そんなふざけた事絶対に言わせない。


智「覚えてないよ、そんなの」


あ。


翔「覚えてない...?」


言ったな?


智「記憶に、ない」


そんな事許さないと、今まさに誓ったところだぞ。


そろそろその減らず口、叩きのめしてやる。





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