テキストサイズ

神様の願い事

第12章 “好き”の向こう

《side爺》




翔「智くん…?」

智「ふふっ、怖くないの? 一応オバケなんだけど」

翔「怖い訳ないでしょ…」


時空の向こう、いわゆるパラレルワールド的なところの自分達に感化されて俺は恋しくなっていた。
翔くんに逢いたくて、仕方なかったんだ。


翔「あれ…」


“逢いたかったよ”と微笑みを零し、翔くんは俺に触れようとした。
だけど伸ばした手は空を掠め、布団にパタリと沈んだ。


智「触れないんだよ…」


実体の無い俺には触れない。
そんな事、翔くんだって分かっていた筈なのに。


翔「智くんの香りはするのに…」

智「香り?」

翔「うん。甘くて、柔らかい… 砂糖菓子みたいな匂い…」


実体も無ければ、その温度も匂いだってもちろん無い。
なのに翔くんには俺の匂いが分かるんだ。


智「ふふっ、そんな匂いするんだ?」

翔「そうだよ。貴方はいつも甘くて」


愛おしそうに俺を見て。


翔「いつか抱きしめたいって思ってた…」

智「翔くん…」


なのにそんな些細な願いも叶わず年老いて。


智「…にしたって誰も見舞い来てないじゃん。結婚くらいしとけば良かったのに」


なんだか涙が出そうで、思わず突拍子もない事を口走った。


翔「さっきまで居たよ(笑)」

智「だけどさ…。俺、翔くんの子供見たかったな」

翔「子供?」

智「その遺伝子を継いだ子供が見たかったんだよ。絶対、凄いヤツになると思ってたから…」

翔「そんなの言ったら俺だって残念だよ? 俺も智くんの子供見たかったし」


そう言えば昔言われた事があった。
貴方が結婚したらどんな子供が生まれるんだろうね、楽しみだなぁと。
それはそれは笑顔であんまり楽しそうに話すもんだから。


翔「なのに貴方“俺は結婚しないよ”なんてアッサリ言うし」


それはだって、なんか、さ。


翔「その遺伝子後世に残して欲しかったんだよなぁ…」


ちょっとだよ? ちょっとだけだけど、胸がチクッとしたと言うか。


智「そんな大した遺伝子じゃないよ?(笑)」

翔「いや凄いって」


その時は“好き”なんて言う感情は持ってなかった。

お互いそうだ。

互いに気付きそうなその気持ちに蓋をして、騙し騙し生きていたんだ。






ストーリーメニュー

TOPTOPへ