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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう

《sideO》



智「ぁ…」


俺の後ろにピタリと触れる熱。
その当てがわれた熱は翔くん自身だ。


翔「いい…?」


それに負けない程の熱を湛えた瞳を俺に向ける。


翔「力抜いて…」


俺の目を見ただけで分かる翔くんに返事は必要無い。
だから緊張で出て来ない声の代わりに瞬きで合図をした。


翔「いくよ…」


その俺の返事を受けた翔くんは腰を掴む手に力を込める。


智「ぅ…」


俺に押し入ろうと、その熱は進もうとしている。


智「く…、っ」


進む熱は、少しずつ俺を押し開いて。
じわりじわりと侵入する。


翔「辛い…?」


辛い事は承知の上だ。


智「だ、いじょ…」


だけどそんなのどうでもいい。
苦しさなんて、どうだっていいんだ。


翔「ごめんね」


朦朧とする風景の中に、心配そうな顔が飛び込んできた。


翔「だけど抱きたいんだ。もう押さえられないんだよ。我慢して…」


身体を折り曲げ俺をぎゅっと抱きしめる。
力いっぱい抱きながら、ぐぐっとその熱を俺に押し込める。


智「う、ぁ」


苦しさを逃す為に、俺は知らずの内に翔くんの腕を掴んでいた。
短く切った筈の爪ですら、翔くんを傷つけてしまう程だ。


智「ぁ、く…っ」


息も絶え絶え、呼吸の仕方すら分からない。


智「ぁ、あ」


短くハッハッと犬のような呼吸をし、かろうじてその圧迫に耐える。


翔「お願い、耐えて…」


遠くに響く翔くんの声。
せつなく願う、翔くんの低い声。


翔「もう、少しだから…」

智「ぅ、あ、ぁ…っ」


途中まで進んだ熱は、勢いをつけて俺に押し入った。


智「っく…」


しっかりと入った翔くんの手が、俺の髪に触れる。


翔「ごめん、大丈夫…?」


柔らかく包み込むように俺を撫で、意識の戻ってきた俺の耳にその声を響かせた。


智「大丈夫だよ…」


まだ呼吸はちゃんと出来ないけど。


智「だから、謝らないで」


でも言いたかった。


智「辛くなんてない」


伝えたかった。


智「苦しくなんてないよ」


俺の言葉でちゃんと。


智「幸せだよ、翔くん…」



俺が今どう感じているか、知って欲しかったんだ。






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