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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第1章  出逢い

「えっ」
 今度は男性の方が愕いたように萌を見る。
 萌は淡く微笑した。
「自分の仕事にそれだけの誇りと責任感を持つって、なかなかできることじゃないと思います。私なんか、何をやっても適当にやっとけば良いやって感じで、考えてみれば、この頃、そんな風に一生懸命っていうか真摯に物事に向き合ったことがあるかなって反省しました」
「何だかそこまで褒められると、居たたまれなくなってしまうな」
 彼は人懐っこい笑顔を浮かべ、心底から嬉しげに笑った。こういう笑い方をすると、いかにも大人の男といった整った顔立ちがまるで少年のように見える。
「ありがとうございました。今日、ここで写真を撮って貰って良かったです。ここに来て、お話を聞いている中に、良い加減な生き方をしてきた自分にやっと気付くことができたような気がします。どれだけできるか判らないけど、私ももっと真剣に生きてみようと思います」
 萌はバッグから財布を出しながら言った。
「いやいや、お礼はこちらが言う方ですよ。萌ちゃんは、お客さまだから」
 彼は笑いながら、萌から料金を受け取った。
 萌は一歩脚を踏み出す。自分がもう、これ以上、ここにいる理由はない。だが、何故か、もう少しここにいて、彼と話していたいと思う自分がいた。
「あの―」
 萌は振り返り、男性を見た。
「私、この写真館の前をよく通りかかるんです。いつもは年配の方を見かけることが多いんですけど」
 それは嘘ではない。日常の買い物―食材や衣料品は近くのスーパーで済ませるが、少し改まったスーツなど、高級品を物色するには、やはり百貨店でなければならない。中元・歳暮などの贈答品もしかりで、デパートの方へゆくため、駅前まで出てくることは比較的多い。
 駅前のデパートに行くときは、必ずこの道を通るのだ。萌はこの建物の前の舗道を箒で掃いている主人らしい人を何度か見かけたことがあった。
 萌の言葉に、彼はまた気さくな笑顔を浮かべた。
「ああ、伯父さんのことかな」
「伯父さん―」

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