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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第3章 雨降りの向こう側には

 あのひととの出逢いを、縁を無駄にしたくはないから、もう後ろを振り返るのは止めて、私は前を向いて生きよう。
 そして、いつか、もしどこかで、あのひとと私の生きる世界が再び交わることがあったとしたら、再び出逢えることがあったとしたら、よりいっそう輝いて素敵になった私をあのひとに見せたい、そんな私をあのひとに撮って貰いたい。
 たとえ、その日が永遠に来なくても、あのひととの出逢いを無意味なものにしたくはないから、私は真摯に生きたい。一枚の写真を撮るために、一人一人の最高の笑顔を撮るために人生で出逢うすべての人と真剣に向き合っているあなたのように。
 雨に打たれたせいで、萌の長い髪も、オフホワイトのコットンのワンピースも既にしとどに濡れている。萌は頭上を仰いだ。
 淀んだ空から、雨は絶え間なく降りしきる。
 突如として、どこかから聞き憶えのあるメロディーが流れてきた。ハッとして振り向くと、向こうから歩いてくる制服姿の女子高生が携帯を手にしている。どうやら、その携帯から流れてくる着信音らしかった。
 胸が苦しくなるような、切なくなるよう曲。
 カーステレオから聞こえてきた、あの曲だ。
 頬を熱い雫がころがり落ちる。
 萌はその雫が涙かなのか雨滴なのかさえ判らず、じっとその音に耳を傾ける。
 すれ違った女子高生が遠ざかってゆくにつれ、あの曲も聞こえなくなってゆく。
 萌は何かを振り切るように小さく首を振ると、ゆっくりと前に向かって歩き出した。


 

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