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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第5章 再会

 ユッコは、当時は両親や友人たち、大学の先生たちまで巻き込んで大騒動させたことなどケロリと忘れた顔で言ってくれる。
「焦って早く結婚するよりも、待つのもテなのね。残り物には福があるっていうし」
 などと、一人で羨ましがっている。
 新郎新婦が牧師の前で誓いの言葉を述べている。
 その時、カメラのフラッシュがまばゆく光り、萌は眼を細めた。そういえば、今日の式、披露宴はホテルではなく外部のスタジオカメラマンに撮影以来をしたのだと亜貴が話していたっけ。
 萌は縦横無尽に動き回るカメラマンをぼんやりと眺めた。時折、閃光が光り、花嫁花婿の決定的な瞬間が捉えられているようだ。萌もスーツのポケットにはデジカメを忍ばせてきたが、ここはプロに任せて披露宴でベストショットを狙うとしようと思った。
 誓いの言葉が終わり、花婿が花嫁の被ったベールを持ち上げ、軽くキス。隣のユッコは熱い溜息を洩らしている。亜貴自身も百六十三センチの長身だから、美形の花嫁花婿の情熱的なキスシーンは、あたかもドラマのワンシーンを見ているようで、ユッコでなくとも見惚れてしまいそうだ。
 指輪の交換も終わった。
 厳かな雰囲気の中に式が済み、萌たち参列者は先に教会の外に出て新郎新婦を待ち受ける。主役の二人が姿を現すと、参列者の間でどよめきが洩れた。
 ライスシャワーが降り注ぐ。亜貴が両腕を高く掲げたかと思うと、胸に抱きしめられていたブーケが空高く投げ上げられた。
 昨夜から降り続いた雨が心配されたものの、天も二人の門出を祝うかのように、昼前には降り止んだ。今は嘘のような晴天で、空はからりと晴れ上がっている。
 雲一つない梅雨の晴れ間の蒼空に、真っ白な胡蝶蘭が舞う。
 カメラを構えていた萌は、無意識の中にシャッターを切る。花嫁も花婿も映ってはいない、けれど、幸福な花嫁を象徴する純白のブーケが六月の空に漂う―その構図は何故か、その日の亜貴の歓びを何より物語っているように思えた。
 亜貴の投げた胡蝶蘭のブーケは、高校生の女の子が手にした。その子は亜貴のお父さんの弟、つまり父方の叔父の娘だ。制服での参列だが、今時の若い子らしくない黒髪で三つ編みにした清楚な姿は、かえって初々しさを引き立てていた。

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