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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第5章 再会

「残念、私もひそかに狙ってたのに」
 ここでも、ユッコは満更冗談ではなさそうな表情で呟いている。
「何言ってるの。ユッコには、生命よりも大切な旦那さまがいるでしょうに」
 と、萌はまともに相手にしない。
 六月(ジユーン)の花嫁(ブライド)は幸せになれるという言い伝えがある。そして、幸せの絶頂にいる花嫁からブーケを与えられた娘もまた、次の幸せを得られるとも。思いがけずブーケを手にした少女は頬を染めて、周囲からしきりに冷やかされている。
 参列者が一人一人、手にした風船を空に飛ばした。ブルー、ピンク、グリーン、イエロー、色とりどりのパステルカラーが空に向かって飛んでゆく風景は圧巻だ。萌はここでもシャッターを何回か切った。
 更に場は変わって、今度は一同、ホテル内の教会から別棟の披露宴会場へと移る。
 最上段、中央に新郎新婦の席がしつらえられ、その両隣に仲人役―新郎の勤務するダイビングスクールの校長夫妻が座る。萌は親族席のテーブルの一つに座った。ユッコは親族ではないが、近しい友人ということで、やはり、隣同士だ。
「それにしても、今日の亜貴ちゃんって、凄く綺麗」
 ユッコはもう恍惚としている。しかし、これに関しては、萌も全く同感であった。
「本当。私、小さい頃から亜貴ちゃんを見てきたけど、こんなに綺麗な亜貴ちゃんは見たことないもの」
 小声で話し合う。
 確かに、今日の亜貴は輝いていた。ずっとショートだった髪をこの日のために少し伸ばし、アップ風に結い、一回目のお色直しの後は薄蒼のカクテルドレスを纏っている。
 萌もユッコも口には出さないけれど、胸の中は恐らく同じに違いないと思った。亜貴はこれまで随分と辛い想いをしてきたのだ。
 彼女は人が好いというのか、惚れっぽくて、しかも好きになった男にはとことんまで尽くす昔気質の女性だ。そんな一途なところを亜貴は実は、今まで付き合った男たちに良いように利用されてきた感がある。萌が知る限りでも、亜貴が付き合った男の数は四、五人はいたけれど、大抵、最後は裏切られるといった形で彼女の恋は終わっていた。
 中でも隆平との恋(亜貴には申し訳ないが、あれを恋愛と呼べるのかどうかは判らない。萌には、あの最低男が最初から従姉を利用する気だったとしか思えない)は最悪の惨憺たるものだった。

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