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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第5章 再会

 高卒で就職して以来、現場の作業員から始まって、コツコツと努力して管理職にまでたたき上がった努力の人である。好きな言葉は〝努力と忍耐〟だと、いつか亜貴が笑いながら語っていた。
 どうやら、叔父はお酌に各テーブルを回りながら、自分自身もまた相当量呑まされているらしい。上手に断るすべを知らず、勧められるままに呑んできたのだろう。
 何しろ、亜貴に言わせればコップ一杯で酔っ払ってしまうという叔父なのだ。
「叔父さん、大丈夫? 顔がかなり紅いけど」
 叔父と萌は直接、血が繋がっているわけではない。しかし、幼い時分から、しょっ中、亜貴の家に出入りしていた関係で、随分と可愛がって貰った。
「大丈夫だ、何のこれしき」
 胸を反らしてみせるが、どう見ても、空元気を装っているようにしか見えない。叔父はつい今し方の勢いはどこへやら、再び悄然とした口調で言った。
「亜貴には今までさんざん手を焼かされて心配してきたけど、これから、婆さんと二人だけだと思うと、淋しくなるよ」
 亜貴が一人暮らしを始めて、もう十年以上になる。ずっと叔母と二人だけで暮らしていたのだから、今更という気がしないわけでもないけれど、やはり嫁がせるとなると、単に離れて暮らしているのとは心境的にも違うのだろう。
 今までなら、離れて暮らしていると言っても、同じR市内に暮らし、逢おうと思えばいつでも逢えた。だが、九州でダイビングのインストラクターをしているご主人と一緒に暮らすわけだから、当然、亜貴も九州で暮らすことになる。新幹線で数時間の距離は、七十を過ぎた叔父には途方もなく遠く感じられるに違いない。
 ご主人は元々は東京出身だが、今回の挙式と披露宴をR市内のホテルで行ったのは、新郎が新婦の親族のことを考えてのことだった。そう、今まで亜貴を利用することしか考えていなかった薄情な恋人たちと違って、新郎は亜貴を思いやり労っている。亜貴は旦那さんに愛されている。今度こそ、きっと従姉は幸せになるだろう。
 それからしばらく、叔父は延々と想い出話と愚痴ともつかないぼやきを繰り返し、やっと次のテーブルへと行った。次のテーブルでも、叔父はビールを注いで回っているが、招待客から〝おめでとうございます〟と言われる度に、泣いている。

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