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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第5章 再会

―私、ずっと、お父さんのこと、どこかで避けてたような気がする。お母さんには威張り散らしてる癖に、涙脆くて、コップ一杯のビールで真っ赤になって昔の想い出を一人で語っては泣くし。
―亜貴ちゃんってさ、本当は叔父さんを好きだったのよ。
―そうね。そうなのかもしれない。だから、お父さんのような男だけはご免だなんて言い続けて、挙げ句に選んだのがお父さんのコピーのような男なのかもね。
 今までの亜貴なら、ムキになって否定したはずだが、何故か、このときの従姉は否定しなかった。トレードマークのショートヘアが少し伸びてボブになった亜貴は、とても女らしく見え、パステルグリーンのニットのセーターと履き古しのジーンズというカジュアルな服装でも、しっとりとしている。
 これまでの亜貴にはない艶っぽさが漂っていて、萌は内心、この時、ドキリとしたものだ。従姉をずっと見てきた萌ですら知らない、初めて見る表情だった。
「萌ちゃん、今日はよく来てくれたね」
 突如として名をよばれ、萌は現実に引き戻された。眼前に、叔父が眼を真っ赤にして立っている。手には、いかにも不慣れな様子でビールを持っている。
「ま、一つ、どうぞ」
 叔父に促され、萌は慌てて首を振る。
「叔父さん、私には気を遣わないで下さい。招待客の方は他にもたくさんいるし、私にまでお酌してたら大変でしょう」
 新郎側と新婦側それぞれ合わせれば、招待客は百五十人になる。その全員にいちいちテーブルを回って挨拶していては、時間も身も保たないだろう。萌なりに叔父を気遣ったのだ。
「いやいや、今日は、萌ちゃんもお客さまだからねえ」
 叔父はそう言いながらも、早くも涙声になっている。
「うちの亜貴は、萌ちゃんには本当に今まで仲良くして貰ったよ。まだ萌ちゃんがろくに喋れもしない赤ン坊の頃から、亜貴は萌ちゃんを妹みたいに可愛がって―」
 叔父は今年、七十三になる。亜貴は叔父が三十、叔母が二十九のときに誕生した。流産を二回繰り返した後、結婚八年目に漸く得た一人娘であったという。
 叔父は、現役時代は建設会社で重役にまでなった人だ。

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