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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第6章 Tomorrow~それぞれの明日~

「おばさん、眼が真っ赤だわ」
 萌が呟くと、シーンはすぐに変わった。
 今度は、亜貴から手紙を受け取る叔父の姿だ。亜貴はやはり、振り袖を纏っている。披露宴では、ホテルの司会者が亜貴の代わりに新婦から父への手紙を朗読した。
 手紙が読まれている間中、浜崎あゆみの〝Virsin road〟がずっと流れていた。既に歌姫としてベテランの域に達している彼女だが、実のところ、萌の世代は、そんなに浜崎あゆみの歌を聴いてはいない。とはいえ、既に三十をとうに超えている彼女の名を小学生の二人の娘たちも知っているのだから、やはり、知名度は抜群だ。
 萌自身、彼女の歌は殆ど知らないけれど、唯一、この歌は結婚式を迎える花嫁の心境を歌った名曲として記憶に残っていた。この歌を出してまもなく、彼女自身が外国人俳優と電撃的結婚を遂げた。〝あゆ、イケメン外人俳優と電撃結婚〟という見出しが新聞の芸能欄を大きく飾ったのはまだ記憶に新しく、世間は騒然としたものだ。
 芸能ニュースには疎い萌ですら、耳にした話題だから、余計に歌の方も印象深かったのかもしれない。結婚を控えた女性の繊細な心の動きを切々と綴った歌詞とドラマチックなメロディラインは、その場の雰囲気をより盛り上げていた。
 けして長くはない、むしろ簡略な手紙の最後は、
―お父さん、これからは、あんまりお母さんを困らせないで、夫婦助け合っていってね。いつまでも元気で、そして、ありがとう。
 で結ばれていた。
 いかにも亜貴らしい文章だと、私は思った。亭主関白だという叔父に、叔母を労るように忠告するのを忘れていない。
 この末尾を聞いていた時、叔父は人眼もはばからず、おいおいと声を上げて号泣していた。叔父の傍でひっそりと涙を流している叔母の姿が逆に印象的でもあった。
「おじさん、号泣してる」
 写真を見ている萌の方まで、何故かまた眼が熱くなる。
 再びシーンが変わった。
 これは、花束と手紙の贈呈が終わった直後だろう。亜貴と旦那さんがぴったりと二人だけで寄り添っているシーンが大写しになっている。

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