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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第6章 Tomorrow~それぞれの明日~

「亜貴ちゃん、綺麗」
 ふいに涙が込み上げてきて、萌は慌てて眼をまたたかせた。 
「流石ですね」
 こんなときに、ありきたりすぎる科白しか出てこない自分のボキャブラリーの乏しさが恨めしい。
「凄いですよ。プロの方に凄いと言うのもかえって変というか失礼かもしれませんけど、つい今し方、私が見たばかりの光景がまさに、ここに灼きつけられてる。何ていうのか、―決定的瞬間で綴られた二人だけの、ううん、家族の物語っていうか」
 たとえ都合がつかなくて披露宴に出なかった人でも、この写真集を見れば、どれだけの感動が生まれ、心温まる時間が今日、ここで紡がれたかを体感できるだろう。出席しなかった人もあたかもこの場にいて、その感動を多くの出席者と共にしたかのような気持ちになれるに違いない。
「祐一郎さんのお仕事って、多くの人に感動をあげられるんですね」
 別に言葉を飾ったわけでもお世辞でもない。心からの賞賛を口にしたにすぎないのに、彼は面映ゆげに頭をかいている。
「参ったなぁ。それは、ちょっと褒め過ぎというか、萌さん、買い被りすぎですよ」
 萌は真顔で首を振る。
「そんなことありません。一年前、証明写真を撮って貰った時、祐一郎さんは言ってたじゃないですか。自分を信じて写真を撮って貰おうと思って来たお客さんの期待に応えられるような写真を撮りたいって。祐一郎さんの一つ一つの仕事に真摯に向き合うその気持ちからきっと、こんな素晴らしい写真が生まれるんですね」
 祐一郎は無言だ。萌はハッと我に返り、口許を抑えた。
「ごめんなさい、素人が知ったようなことを言って。生意気でしたよね。私、披露宴のときも、友達に言われたんです。ちょっと固いっていうか、真面目すぎるって。何でも物事を四角四面に捉えすぎるっていうか。ムキになりすぎるんですよね。自分でも判ってるけれど、変えられなくて」
「いいえ、全然。こんな風に直截に評価して貰えたというか、褒めて貰ったことがないので、少しびっくりしただけです。でも、嬉しいですよね。一度でも僕が写真を撮ったお客さんがそう言って下さるなんて、カメラマンとしては冥利に尽きますよ。―ありがとう」

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