テキストサイズ

果てない空の向こう側【ARS】

第2章 長男・智(ゲージツ家)

実は、すでにフィギュアの会社の求人に応募したことがある。


でも、社会人経験のない俺が中途で採用されるのは難しかった。


それに、美大では純粋芸術として彫刻を学んでいたから、アニメや映画のキャラクターの特徴を誇張したようなフィギュアは作ったことがなかった。


実際、今の俺は母ちゃんのすねをかじって暮らしている。


翔は一流商社に勤めるエリートで、わが家一番の稼ぎ頭だ。

雅紀は、中華料理の名店でコックとして働いている。


和也は漫画家の卵だけど、人気漫画家の先生のアシスタントもしているから、不定給ながらも俺より収入はある。


潤は新人美容師で給料は安いみたいだけど、毎月きちんと母ちゃんに食費を入れている。


俺だけが、根なし草みたいにふわふわしている。


てくてく歩いているうちにあの坂に差し掛かったけど、もう猫はいなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ