方位磁石の指す方向。
第6章 scene 5.5
「智、」
「やだ」
「ねえってば、」
「やだっての!」
「えー…ひどい」
「仕方ないじゃん」
購買で、俺がカレーパンを
袋に入れて下げてたら、
雅紀が恨めしそうに
こっちを見ていた。
「俺のカレーパンーーー!
それがなきゃ、
午後の授業無理だよぅ。
だって体育だよ…?
もう、やだよぅ…」
うるうるした瞳で
こっちを見てくるけど、
こっちだってカレーパンが食べたい。
だから今日だけは、
今日は渡せない。
「ねえ、智ぃ」
「やだっつの。」
「まあまあ、雅紀、
俺のコロッケパンあげ──…」
「いらない!
カレーパンがいい!」
いい歳した高校生が
なにやってんだって思う。
ちったぁ我慢しろや。
なんて思うけど、
やっぱり雅紀が好きで。
「…ちょっとだけなら、」
「っ、え!?」
「よっ!四分の一だけなら!
くれてあげても、悪くは、ないけど…?」
語尾が小さくなるのが
自分でもわかる。
恥ずかし、