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方位磁石の指す方向。

第1章 scene 1






「おばさん、ただいま。」

「おかえり、智は?」

「友達と寄り道。」

「そう…おやつ、台所にあるから。
じゃあ、パートの時間だから行ってくるね。」

「…いってらっしゃい。」



俺、おばさんによくしてもらってるのに、
なんにもできない。

…申し訳ない。


今日のおやつは手作りだと思われる
カップケーキ。


…あ、美味しい。



……今頃、潤くんたちは
何してるのかなぁ。

お話ししてるのかな。


「…ぐすっ……。」



やっぱりついていけばよかった。


「具合悪かったの?」

「え……?」



声のした方を振り返ったら
翔さんがいた。


なん、で……?


「…具合悪いなら
言えばよかったのに。

腹痛いの?頭?

泣くほど辛い?」

「ち、違う…」

「じゃあなんで泣いてるの?」


…それより、なんでいるの?


「なんで、来たんだよっ。
不法侵入だっ!」

「残念。
おばさんの許可貰ってますー。

心配だったから来たの。」

「…翔さん…。」



嬉しくてもっと涙が出た。
翔さんは優しく頭を撫でた。



「二宮の部屋どこ?」

「二階の一番端っこ。」

「送る。」



そう言って俺の手を
握り締める翔さん。

…あったかくて、大きい手。



「おー、片付いてる。」

「…翔さん。」

「ん?」

「……ありがとう。」

「おう。」



翔さんはかっこよく笑う。

…ずるい。



「あ、この漫画読みたいヤツ。」

「…読んでもいいよ?」


…あ、上から目線。

今日会ったばっかなのに、
偉そうすぎるよ…。


「んじゃ、読ませてもらうわ。」

「…うん。」



翔さんは俺のベッドに腰掛けて
本を読み始めた。

…何しよう。


邪魔しちゃ悪いよね。


…おやつ食べてよう。

部屋から出ようとしたら、
また腕を掴まれた。


「…肩、脱臼するってば。」

「あーごめん。
トイレどこ?」

「一階の東側。」


さんきゅって降りていく。

…台所にはカップケーキが
あと二つ。
…翔さんにあげてもいいよね。

あとは飲み物飲み物。
炭酸でいいかなぁ。



自分の部屋で翔さんの帰りを待ってた。

だけど、何分経っても
翔さんは来てくれなくて。


…帰っちゃったのかなぁ。


……なんで俺、残念がってるんだろ。

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