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売り専ボーイ・ナツ

第1章 ある日の記憶

「ナツくん、まだ?」

オーナーがしびれを切らし、待機室の引き戸をがらっと開ける。

「いま行きます」

ドアの向こうに、ちらっと客の足だけが見えた。
客のほうから待機室の様子がわからないように仕切りが置いてある。。
どうやら客は、スーツを着ているようだった。

仕事帰りにしては早すぎる。
営業マンの外回り中、といったところか。
仕事を抜け出して俺らの接客を受けにくる営業マンはけっこういる。

俺は、だらしなく垂らしたシャツのすそを、パンツの中に押し入れた。

待機室を出て仕切りをこえ、客ににっこり笑いかける。

「こんにちは」

絶対に「ご指名ありがとうございます」とは言わない。
外回りついでに軽くイッパツ抜くためだけに来ている客に、そんなあいさつ、重すぎる。

軽くあいさつ。

さくっと抜いて、「またね」の一言で見送り。
昼間の客は、それぐらいのゆるい距離感を求めている。

客も、「どうも」と一言だけ口にし、早くホテルに向かいたそうに、すでに体はドアのほうを向いている。

さて。それじゃさくっといきますか。

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