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売り専ボーイ・ナツ

第4章 ボーイ仲間との日常

「こんばんわぁ」

女性?

俺は入ってきた人を見て、一瞬そんなことを思った。

長い髪。少しふくよかで丸みのあるからだ。
その人は白い着物を着ていた。
第一印象は女性。おばさん。
でも、声のトーンと顔だちを見ると、男性のようだ。

「あら、ヒロ。いい?」

「どうぞー」

その人はカウンターの真ん中に座った。

「じゃ、また来る」

入れ違いで、カウンターの端の男性はヒロさんに声をかけて店を出て行った。
精算なし。常連だからツケなのかな。

「あなた、だぁれ?」

そんなことを思っている俺のほうを振り返って、彼女(?)はそうたずねた。

「あ、ナツといいます。今日ここ初めてなんです」

「ヘブンの子。でも、ヘブンも最近入ったんだよな?」

「昨日です」

すると彼女はくすっと笑って「じゃまだ初々しいわね」と言って、ヒロさんのほうに顔を戻した。

さっきまでソファーに座っていたショウキくんも、立ち上がり、バーカウンターに入ってきた。
俺だけカウンターの外でお客さんと横並びはまずいよな。いくら立っているとはいえ。

そう思って、俺もカウンターの中に入ってみた。
水商売の裏側っぽい場所を見るのは初めてだ。
カウンターの端に、空のペットボトルの山。ミネラルウォーターとコーラだ。
あとはカウンターの中にまだ洗ってないグラスが数個転がっている。
内側は明るいぶん、いろいろなところが目につき、少し神経質な俺には「もっと整理すればいいのに」という印象を与えた。
さっきの常連らしきお客さんが飲んでいたグラスをヒロさんがさげ、またカウンターの中の汚れたグラスが一個増えた。

そこにシンクがあるから洗おうかなと思ったが、三人が立ったカウンターの中は狭くて、動きにくい。
とりあえず様子を見よう。

ショウキくんと俺はただ、ヒロさんとお客さんの会話をみている。
そのお客さんは、セツコさんと言うらしい。

どこのお店の誰がどうした、そこのママがどうした、家賃がどうした。そんな話をしている。

どうやらセツコさんも、水商売の人のようだ。

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