
天然執事はいかがです?
第9章 縁談前日
父さんは手紙に書いていた通り、6日に帰ってきた。
お土産にマカロンやらケーキやら出してくるが、そんな物どうでもいい。
「父さん、率直に言いたいことがあるんだけど」
「言ってみろ」
上から目線が相変わらずムカつくが、その脛にかじりついているからそんなこと言ってられない。
「婚約なんて嫌だ」
「嫌だの問題じゃない。これは篠原家に関わるんだ」
ギロッと睨まれ思わずたじろぐ。
だが負けてられない。
「だとしてもこれは私の人生だよ。父さんのものじゃない」
「なら婚約するかどうかは、相手に会ってから決めろ。
端から決めつけることは良くないことだ」
もっともなことを言われ、ぐうの音も出ない。
終いに母さんにまぁまぁとなだめられた。
部屋に戻り、宿題を手にするが一向に進まない。
父さんにイラついて仕方がない。
「落ち着いてください、お嬢様。苛立つのは分かりますが、一度会ってからお断りすれば………」
「アルトさんなんかに私の気持ちは分かんないッ!!!!」
アルトさんに思い余ってひどい言葉を掛けた。
私は上着も羽織らず家を飛び出した。
11月の寒い風を受けながら、ただひたすらに自転車をこいだ。
一歩でも屋敷から離れるように。
