飴と鞭と甘いワナ
第5章 scene Ⅴ
人気の少ない車両で。
ユラユラと車体の動きに不安定に身体を揺らすニノ。
辺りを見渡すと居眠ってるリーマン、お喋りに夢中なオバサマと。
ソシャゲに一心不乱なJK二人。
誰も俺らなんか見てない。
だから、俺は俺の背中をちょっとだけ押してやる。
緩いカーブに合わせて俺に寄っ掛かってきたニノの腰に何気に腕を回す。
ピクと逆立つ柳眉…は見て見ぬフリ。
ここで怯んじゃ男が廃る。
グイとチカラを手のひらに籠めればニノからストンとチカラが抜けて。
スッと半歩、身体を擦り寄せてくるから…もう堪ンない。
「……ニノ」
真正面向いたままで。
「…ンだよ」
ぶっきらぼうに返されて。
少しは俺、期待してもいいのかな?
横目で隣をチロと見たら、ニノと視線がぶつかって。
鉄橋を渡る賑やかな音とニノが何を思ったのか、クスリと忍び笑う声が混じって耳に聞こえてきた。