飴と鞭と甘いワナ
第5章 scene Ⅴ
「…半分って、それでも高すぎるっつーの」
まだ拗ねたままの雅紀が、窓の外に目を向けた
「ねぇ、雅紀クン?」
わざと上目遣いで雅紀を見上げると
「な…なにっ」
途端に身構えるのは、やっぱり普段の行いのせい?
それとも、雅紀「クン」呼びのせい?
…別に取って食うわけじゃないんだから、そんな反応しなくたっていいじゃねぇか
喜べよ、少しは
ちょっと可愛く呼んでやったんだから
「俺が、いつ現金で払えって言った?」
「へ?」
雅紀がぽかーんと口を開けた
「お前が金ないのなんか知ってる」
「…昼飯は奢らせたくせに」
「それくらいはあるだろ、オトナなんだから」
「う゛っ…」
口で俺に敵うわけないだろって
ガタン、と電車が大きく揺れて、弾みで体の密着度が増した
「あ、ごめん」
さすがに公衆の面前だから、すぐに離れようとしたら
「いいよ、寄っ掛かってて」
俺を支えていた手に、軽く抑えられる
あれ?
何か雅紀、今日は随分頑張ってない?