飴と鞭と甘いワナ
第5章 scene Ⅴ
本当に邪気のない笑顔って、目を奪われるんだよ
…思わずキスしたくなっちゃうだろ
フイっと目を逸らせば
「どうしたの?」
なんて、目敏く気付いちゃうし
「何が」
"これ以上何も言うな " と流れる車窓に視線を移す
参ったなー…
何だか今日はペースが掴みきれない
間違いなく主導権は握ってるんだけど、何かが違う
「お客さん、役者さんなの?」
雅紀が目をキラキラさせて聞いてきた
「うん」
「にの、やっぱ凄いんだねぇ」
「別に凄くねぇし」
そっけなく答えてはいるけど
褒められて喜んでる自分がいて
赤くなりそうな頬を、何とか違う事を考えて抑え込んだ
「じゃあ、この服って…」
お?
察しがついた?
「そう。やっぱりラフ過ぎんのも失礼だし
…お前、どうせ持ってないだろうから」
「悪かったな、持ってなくて」
雅紀が拗ねたように唇を尖らせる
「だから、わざわざ送ってやったんだろ」
「怖い請求書付きだったけどね」
「なら後の『バナナは…』ってのは?」
「別に意味ない」
ただ、雅紀ならあの悪戯も変に勘ぐるだろうと思っただけ