飴と鞭と甘いワナ
第5章 scene Ⅴ
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「…あのなぁ……」
「ごめ゛…っ感動じぢゃっで…」
ズルズルと鼻水を吸いながら、必死に泣き止もうとする雅紀に、ティッシュを渡す
ずびーっと鼻をかんで、ようやく落ち着いたのか
「にの、感動してないの?」
言葉の濁音が消えた
「…したよ」
…途中までは、確かに夢中になって見ていた
感動もしたし、物語に入り込んだ
だけど、後半に入って何気無く隣を見たら
はらはらと涙を溢す雅紀がいて
その涙が、照明のせいなのかやけに綺麗に見えて
……舞台を楽しむどころじゃなくなってしまったんだ
雅紀に目を奪われたまま、大きな拍手で我に帰った時は
もう幕が降りるところで
…ラストは全然見ていない
「行こう」
俺は席を立って、雅紀を促した
「あ、楽屋寄るんだっけ?」
劇場に入る前に買った花束
帰り際に楽屋に挨拶に行くと言って用意した
「寄らない」
「え、ちょっと…にの?」
「スタッフさんに渡すからいい」
…見てないんだから、嘘の感想は言いたくない
そう言う嘘は、嫌いなんだ