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飴と鞭と甘いワナ

第5章 scene Ⅴ


「手、離してくれない?」
立ち塞がるように目の前にいる雅紀を少し見上げた

「あ、…ごめん」
素直にパッと手を離す雅紀は、いつものバカ正直な雅紀

咄嗟の判断はまだまだ機転が効かないらしい

その隙をついて
離された腕を再び両手で絡み取り
俺は「雅紀も分かっている」はずの目的地に向かって更に歩を進めた


「にの!本気?!」

「さっき言ったじゃん」

「でも……っ」

この期に及んでまだ拒む?

…俺の事好きなら、こういうのチャンスなんじゃねぇの?

重くなってる足取りの雅紀を引っ張るの、なかなか力いるんだけど


「じゃあいいよ、帰ろ」
冷たく言い放つ

「え、」

「だけど、帰ったらお前とは赤の他人に戻るから」

俺だって、衝動で動いてる訳じゃない
これを越えたらどうなるかなんか分からないけど

お遊びでない事だけは確かなんだ


「にの、それ…どういう事?」

雅紀の目が鋭くなる
見た事のないその光に一瞬怯みそうになったけど、悟られないように雅紀を見つめ返した

「そのままの意味。…お互いを知らない頃に戻るって事」

俺の中の
……小さな、賭けだった

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