飴と鞭と甘いワナ
第5章 scene Ⅴ
「何だよそれ!」
雅紀にしては珍しく苛立ちを露にした
「何も言わなきゃ、俺だって分かんないよ?
…にのの考えてる事、何も分かんない」
「お前には、言ったって分かんねぇよ」
俺の、この一言が雅紀の何かに触れたらしい
「ああ、そうだよ分かんないよ」
雅紀の声がグッと低くなった
そして、俺の手を振り払ったかと思ったら力づくで腰を抱き寄せると
「いいよ、いこ」
そのまま俺を引き摺るようにして歩きだした
入口も躊躇なく入っていく
何も迷う事なくフロントに向かうと
「すいません、彼、具合悪くなっちゃって…
男2人じゃマズイですか?」
平然として従業員に話しかけていた姿は
雅紀だけど雅紀じゃないみたいで
俺から誘ったはずが、いたたまれなくなってきていた
何かフロントと話していたけど、全く耳に入ってこない
ただ、茫然と雅紀に押さえ込まれているだけ
「にの、行くよ」
低い声のままの雅紀に腰を押され、ハッと我に返った
「普通さ、男同士はダメなとこ多いんだよ」
「…え、」
「そんなのも知らないくせに、何誘ってんの」