飴と鞭と甘いワナ
第5章 scene Ⅴ
雅紀は更に薄く笑った
「…やっぱにのはストレートなんだよ」
どこか苦しげにも見える瞳
…それでも俺を引き摺る手は止めてはくれない
渡された鍵のナンバーが描かれたドアの前
雅紀が足を止めて、ちらりと俺を振り返った
「…さっさと入れば?」
ここに来て、ようやく俺の声が出せた
強気な雅紀に怯んだ自分が悔しくて、精一杯の虚勢を張る
自分でも分かる、固い声色に気付かれたくない
「…ふふ、にの無理してる」
俺の状況なんて理解出来てる雅紀の口角が更に上がった
「無理なんて…してない!」
こうなると、俺はただの意地っ張りの子どもみたいで
だけどだからと言って今更どうしようもないのは、火を見るより明らかだった
雅紀の横をすり抜けて、先に無機質な廊下を進む
閉じられた、部屋に続くドアに手を掛けると
悟られないように小さく息を飲んでから
…勢い良くそれを開けた
大きなベッドが真ん中に1つ
照明はやたらと薄暗い
郊外にある所謂「ラブホテル」とは違って
比較的シンプルな造り
違うのは
テーブルに置かれたメニュー表の中身や、鏡がやたら多い事