飴と鞭と甘いワナ
第5章 scene Ⅴ
そりゃ俺だって、こういう場所は利用した事くらいある
だけど車で行く場所ばかりだからなのか
いかにも「ここでヤリます」な、とこばかりで
むしろシンプルなこの場所は
変な罪悪感と言うか、背徳感を抱いてしまう
「にの?…座ったら?」
後ろからふいに肩を抱かれ、思わずビクリと体が跳ねてしまった
「あ…、うん」
言われるままに、ソファーに腰掛けるけど
どうにも落ち着かない
何でこんな事になってんだよ
立場、逆転してんじゃねぇか……
「はい」
雅紀が、冷蔵庫から取り出したビールを差し出した
黙ったままその缶を持つ手を見つめてると
「飲まない?」
自分はさっさとプルタブを開けて、喉に流し込んだ
その余裕ありげな態度がムカつく
「あ!にのっ」
俺は雅紀が飲んでる缶を奪って、それを一気に飲み干してやった
苦味が胃に染み渡ったからか
缶を取られた時の雅紀が、いつもの雅紀だったからか
俺にも少し余裕ができた
「もう…何で人の取るんだよ」
ぶつぶつ言いながら、俺に渡すつもりだった缶を開けたのを見計らって
「もーらいっ」
それもまた、奪ってやった