飴と鞭と甘いワナ
第11章 3匙め
二宮さんの手首を掴んで俺の腰へ回す。
腹の前で組ませた手の甲をポンと叩いて
"行くよ"
合図すればギュッと抱きつく二宮さんの腕にチカラが入った。
不意に密着度が増して。
心臓に心拍数メーターがあったら振り切れそうなくらいに動悸が跳ね上がった。
どこからどう見ても野郎にしか見えない彼を可愛いと思ったり、心臓がドキドキしたり。
"ええっ?…どーした、俺"
とにかく このイミフな状態をどうにかしたくて。
とりあえずウィンカーを右へと出して。
後続車へ軽く手を上げ
" 入れて "
サインを送る。
僅かな車間へ滑り込んで、流れを縫って加速する。
まだドキドキは止まらない。
***
見慣れた駅のロータリーの端。
停まったのと同時に後ろの温もりが離れた。
急にスースーする背中が粟立ってブルッと身体が震える。
「ありがとう…」
手渡されたヘルメット。
視線は微妙に外されて。
「……ン…じゃまた」
俺も深追いはしない。
自宅を教えてくれないのはそう云うコトなんだろうから。