飴と鞭と甘いワナ
第11章 3匙め
上がったり下がったりする説明のつかない感情を持て余しながらダラダラと他愛ない話をする。
時折二宮さんがスマホをチラ見するのはとっくに終わってる面会時間を気にしてのコトだろう。
話題が何となく尽きたタイミングで
"……そろそろ"
話を切り上げて帰ろうと立ち上がった彼を
「二宮さん」
咄嗟に呼び止めた。
"何を言うンだ?"
些か緊張した面持ちで俺へと向き直った二宮さんに
「入院してる間、10分…いや、5分でいい…」
"…顔を見せてほしい"
思いきって口にする。
こんな状況で懇願するなんて…こんな卑怯技…俺も大概性悪だ。
下唇をクッと噛んだ二宮さんからは色好い返事はなくて。
戸惑いを隠しきれないまま
"…じゃあ"
素っ気なく頭を下げると二宮さんはスライドドアを引き、部屋を出ていった。
無表情な背中を黙って見送るしかなくて。
そりゃそうか……
俺なんかにたとえ5分でも時間を割くなら彼女と一緒に居たいわな。
手に指輪が無かったからって既婚者じゃない、そんなチープな理屈にいつの間にか縋ってる俺…笑っちまう。