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飴と鞭と甘いワナ

第11章 3匙め


"結婚はしてなくても……"
彼女くらいは居るだろう。

そうだ、家を教えないのは多分そう云うコトなんだ。

自問自答が弾き出した答えに頭の芯がスッと冷えた。

枕頭台の上にある奇跡的に無傷だったスマホ。

三角巾とエプロンに包まれたようになってたのが項を奏したらしい。

料理教室に行こうとして事故ったってのに大事な通信ツールがエプロンに守られたって

「……皮肉なもんだな」

スマホを手にして。

せっかく知った二宮さんのケー番も着歴も消した。

電源も切った。

"ほら…院内は携帯ダメだし…"
つまらない言い訳を呟きながら。




***

誰も来ない。

俺は所謂 天涯孤独な身の上。

5歳の時、児童施設の前に置き去られて以来 一人だ。

唯一ずっと一緒にあったのは

『星の王子さま』

それを持って施設の前に居たらしい。

覚えてないけど。

この本だけは肌身離さず持ち歩いてる。

スマホと一緒にこれも無事だったのは不幸中の幸い。

日長一日ベッドの上でページを繰って過ごす。

退屈を通り越して…怠惰だ。

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