飴と鞭と甘いワナ
第12章 4匙め
"こんな昔話、話したの二宮さんが初めて"
そう言えば
"…うそつけ 彼女さんが居るだろ"
速攻 嘘つき呼ばわりするから
「…あいつには言ってないよ」
あの取り澄ました顔を思い浮かべる。
何で彼女には言えず
「マジで二宮さんが初めて」
彼には話せたのか。
"…参ったな"
急に何か彼の顔をまともに見てらんなくなって目を逸らした。
持て余し気味な沈黙が続く中、カタンと椅子の音がして
「…帰ります」
か細い声が
「じゃまた明日」
向けられた背中へ
「ん、また明日」
"また明日"
そう言ってくれる、そして そう言えるコトの幸せ。
胸の内に広がる仄かな温もりが愛しかった。
*
そんな淡い幸せを感じながら 漸く明日に退院を控えた週末前の宵の頃。
神妙な面持ちの二宮さんが黙ってベッド脇の椅子に腰かけた。
「…どうした?」
張り詰めた空気を纏った彼に何となく声を掛け辛くて当たり障りのないコトを聞く。
何かを払拭するみたいにユルリと頭を振って
「来られないンですか?…」
"…彼女さん"
言葉尻にそう匂わせて二宮さんは口を噤んだ。