飴と鞭と甘いワナ
第12章 4匙め
「あの……」
丁度画面がビールのCMに切り替わった その時
「明日…退院したら会って貰えませんか?」
何かを決したみたいに
“もし会えるなら……“
二宮さんが指定した時刻は明日の今頃。
料理教室のある駅前で待ち合わせたいと俺をチラと見て
「ホントは退院に付き添いたいんですケド…」
“…ちょっと外せない野暮用があって…無理なら…“
「いいよ、大丈夫。全然無理じゃない」
食いつく勢いで言えば硬い顔をしてた二宮さんの口許に柔らかな笑みが浮かんだ。
その幾分ホッとした顔は何故か俺の心をざわつかせた。
優先させたい “野暮用“ って…そんなの最早 “野暮“ なんて言わないだろ。
そう云えばさっきからやたら俺に彼女の話を振ったのは…
“…もしかして彼女を紹介するつもりなのかも“
嫌なフラグが立った気がした。
こう云う勘は過去に外した例しがないオトコ、それが俺だ。
焦って
“いいよ“
なんて何で安請け合いしたんだろ。
今更
“無理“
なんて言えない。
「相葉さん…」
呼ばれてハッとすれば
「明日、俺……多分色々ボロボロなんで」
“……慰めてくださいね“
椅子から腰を浮かせた二宮さんが俺の耳許で囁いた。
“慰め?“
“何を?何で?“
また頭の中が???でいっぱいになる。
明日が怖い。