飴と鞭と甘いワナ
第12章 4匙め
N side
相葉さんは来てくれるんだろうか
“いいよ“ って言ってはくれたけど、もしかしたら来ないかもしれない
それか…この顔見たら “面倒な事には巻き込まれたくない“ って引き返しちゃうかな
改札口に立っている俺を
通り過ぎる人がチラチラと見ていく
そりゃそうだよね
いかにも “殴られました“ って顔してるんだもん
口の端は切れて赤黒く腫れてるし
倒れた拍子に打ち付けたこめかみも色が少し変わってる
いくら長めな前髪でも隠せてない
覚悟はしてた
結婚を白紙にしたいと申し出れば、娘を溺愛してる親父さんだ
何もなく終わるなんて甘い事は思ってなかった
だけど
殴ったのは親父さんじゃなくて、…彼女
見境を無くした女がこんなに怖いのかと初めて知った
今まで見た事のない形相で、どこにそんな力があるんだって強さで殴られた
思い付く限りの暴言を浴びせられて
俺の人格まで否定する言葉を投げつけられ
挙げ句に、…これだよ
ー…女って怖ぇ
だけど痛みと引き換えに、手に入った自由は
とてつもなく大きいものだった