飴と鞭と甘いワナ
第12章 4匙め
「やっぱその顔じゃコーヒーは…」
"…キツいでしょ"
口元を指差してから目で改札へと促せば
"……ですよね"
目で返されて。
ハーッと長い溜め息を吐いた二宮さんは俺の腕を取り
「…行きましょうか」
手のICカードを見せた。
*
ホームに上がればタイミング悪く電車は調度出た後。
仕方なく二人して喫煙コーナーの灰皿を挟んで向かい合って立った。
吹きっ曝しのホームの端はライターを擦っても擦っても直ぐに風が火を浚って消してしまう。
何度もライターを擦る俺の手へ重なる様に翳された二宮さんの手。
「……俺にも火貸して下さいよ」
俯く横顔、ほんのり縁が赤くなった耳。
どうにか点いた小さな火に二人して顔を傾けた。
吐息の温もりを感じられそうな、頬が触れてしまいそうな そんなヤバい至近距離に心臓が早鐘を打ちだすから始末に負えない。
灰皿へ灰を落とすフリしながらさりげなく半歩だけ二宮さんからズレた。
"……鎮まれ 鎮まれ"
そう唱えながら。